質の高い睡眠は、戦略と技術で手に入る。【「脳力」をのばす!快適睡眠術 -吉田たかよし- 】
2008年5月に発行された、吉田たかよし氏著の【「脳力」をのばす!快適睡眠術】を読んで学んだことをまとめています。
本書では、「脳力」を高めるための効果的な睡眠術が多く紹介されています。
睡眠不足により引き起こされる不調についてや、脳にとって効果的な睡眠リズム、睡眠の質を上げるためのテクニックなどを学ぶことができます。
睡眠はエネルギーを回復するために必要不可欠な行動です。本書から学び、質の良い快適な睡眠を手に入れ、脳の力を高めていきましょう。
眠りをステップアップさせることは、人生の質そのものをステップアップさせることにつながります。
吉田たかよし 「脳力」をのばす!快適睡眠術
- 1:甘くみてはいけない、睡眠不足という一大事。
- 2:最高の睡眠を手に入れるための戦略とテクニック。
- 3:快眠のために、手軽に行える睡眠テクニック。
- 4:睡眠日記で、自分にあった睡眠時間をみつける。
- 5:睡眠に関わる誤解。
- 6:重度な睡眠障害は重病の可能性あり。
1:甘くみてはいけない、睡眠不足という一大事。
睡眠不足が良くないなんてことは、わかりきっていると思いますが、十分な睡眠ができていないと、思っている以上に心身に不調が発生します。
情緒障害が引き起こされたり、発ガンや感染症のリスクが上がることが判明しています。睡眠不足とは生死に関わることなのです。
まずは睡眠不足の危険性について学び、睡眠の重要性を再確認しましょう。
睡眠不足の症状1:脳が狂う、幻覚・幻聴。
睡眠を断って起き続けることを「断眠」といいます。医師監視の元、断眠に挑戦したという実験は多々あります。実験の結果、断眠が続くと、
言動が異常になり、精神が害され、最後には幻覚や幻聴が現れました。
他の実験では、断眠によって脳にどのような変化が起こるのかを調べたものもあります。結果は、
記憶力が大幅に低下し、極度のイライラ感が現れました。さらに、子供でもできるような簡単な計算が全くできなくなってしまいました。
これらの実験は、それぞれ200時間、264時間の断眠という極端な睡眠不足時を調べたものです。
ここまで極端なものではなくても、睡眠不足というのは脳機能に確実に異常を及ぼすということは証明されています。
睡眠不足の症状2:突発的に眠ってしまう、マイクロスリープ。
マイクロスリープとは、
数秒程度、瞬間的に眠ってしまう特殊な睡眠現象です。
睡眠不足時に無理して起き続けていると現れます。マイクロスリープ時は恐ろしいことに、本人も周りの人も、眠っているということに気づきません。それほどごく短い時間だけ眠りに落ちる現象です。
しかし、マイクロスリープは悪いことというわけではなく、脳を守るために起こる現象といえます。
睡眠が不足しているときに、脳が異常事態に陥らないように最小限の時間で回復を図ってくれるのがマイクロスリープです。
自分でも気づかずに眠ってしまうマイクロスリープは、そもそも認識できません。そのため寝たという自覚がなく、「寝なくても根性でなんとかなる」と勘違いをさせてしまいます。ですが、短い時間とはいえ確実に寝ているのです。しかも瞬間的に。
運転中や、生命に危険を及ぼす可能性のある作業中にマイクロスリープが発生したら、大事故につながります。
マイクロスリープは脳を守ってくれるメリットがある反面、一瞬で眠りに落とし、そのことに気づかせもしないというデメリットがあります。
防ぐためには、マイクロスリープが必要ない状態にするために、十分な睡眠をとることが必要です。
睡眠不足の症状3:理性や思考力を司る前頭連合野に大ダメージ。
前頭連合野は脳の一部であり、理性・思考力・創造力を司っています。
前頭連合野は睡眠不足によって、最もダメージを受けやすい性質を持っています。
睡眠不足による集中力の低下、思考力の低下、やる気の軽減、これらすべては前頭連合野の働きが妨げられていることが原因です。
洞察力も前頭連合野が生み出す能力であり、ドイツのリューベック大学の研究によると、睡眠不足は洞察力を低下させるということが実証されています。
欲望や衝動という感情は大脳辺縁系で生み出されますが、前頭連合野によってコントロールされています。そのため、睡眠不足により前頭連合野の働きが悪くなると、
普段抑えられている欲望や衝動がコントロールできなくなり、行動に現れてしまうようになります。
睡眠不足の症状4:記憶の定着に重要なレム睡眠が減少する。
人間の睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の二つがあり、睡眠時間が短くなると、優先的に「レム睡眠」が減少する仕組みになっています。
レム睡眠中は、記憶の中枢である「海馬」と呼ばれる脳の部分が活動しています。
レム睡眠中の海馬の働きにより、一時的な近時記憶を、半永久的に消えない遠隔記憶へと変換していると考えられています。
レム睡眠を十分にとれば記憶の定着率が上がり、レム睡眠を妨げると、記憶の定着率が大幅に低下するという事実が判明しています。
記憶力を高めるには、質の高いレム睡眠を確保することが重要です。
睡眠不足の症状5:発がんのリスク増加。
慢性的な睡眠不足は免疫力を低下させ、発がんのリスクを高めます。
健康な人も不健康な人も例外なく、がん細胞は体内で毎日生み出されています。このがん細胞を摘み取ってくれるのが、NK細胞(ナチュラル・キラー・セル)と呼ばれるリンパ球です。
リンパ球は睡眠不足に弱く、
十分な睡眠を確保しないと、リンパ球の活性が落ち、免疫力が低下し、それにともないNK細胞の働きが悪くなり、がん細胞の早期除去を行ってくれなくなります。
そのため結果として、発癌率が高まるのです。
睡眠不足の症状6:太る。
睡眠と肥満の関係には、レプチンとグレリンという2つのホルモンの存在があります。
●レプチン
食欲を抑える、基礎代謝量をアップさせる働きを持ち、食欲抑制物質とも呼ばれる。
●グレリン
食欲を促す働きを持ち、食欲促進物質とも呼ばれる。
つまり、レプチンは食欲を抑え、グレリンは食欲を増幅させます。
睡眠不足時には、レプチンの分泌が低下し、グレリンの分泌が増加することがわかっています。
睡眠が不足すると、血液中の栄養源を満たし、ストレスに耐えられるように、グルココルチコイドという血糖値を上昇させる働きを持つ物質が増加します。
グルココルチコイドが増えても、そもそもの栄養素が不足していたらどうしようもないため、グレリンの分泌を増やし、レプチンの分泌を減らすことで、食事を積極的に摂るように仕向けてきます。
このメカニズムにより、睡眠不足は肥満と結びつくのです。
幻覚・幻聴、マイクロスリープ、理性や思考力の低下、記憶力の低下、発癌リスクの増加、肥満促進、これらが睡眠不足により引き起こされるデメリットの代表的なものです。
睡眠は非常に大事な活動であり、睡眠不足は頭にも体にも悪影響を及ぼします。
睡眠不足の危険性をしっかりと把握し、睡眠の重要性を正しく理解しましょう。
Point
睡眠不足は、頭と体を確実に蝕んでいく。
2:最高の睡眠を手に入れるための戦略とテクニック。
睡眠は、戦略とテクニックを正しく活用することで、質の高いものへと簡単に変化させることができます。
睡眠は技術であり、生まれつきの才能ではなく、日常で学べる知識です。最高の睡眠を手に入れるための戦略とテクニックをまとめていきます。
戦略1:サーカディアンリズムを知る。
人間も含むほぼ全ての生物は、地球の自転周期に合った約24時間のリズムで生活するように働きかける、時計遺伝子を持っています。この時計遺伝子はサーカディアンリズム(体内時計)を司る遺伝子群です。
睡眠と覚醒のサイクルだけではなく、血圧や体温調節など生理機能のほとんどがサーカディアンリズムを持っています。
しかし、地球の自転が24時間周期なのに対して、人間のサーカディアンリズムは微妙に24時間ではありません。個人差があると言われていますが、±1時間程度のズレがあります。
地球の周期とサーカディアンリズムのズレこそが、程度の大小はあるものの、睡眠障害を引き起こしているのです。
ではどうすればいいのかというと、同調因子を利用してサーカディアンリズムを24時間に近づけるように、整えることができます。
リズムを整える同調因子の代表的なものは、光、食事、他人とのふれあい、です。これらについてさらに詳しくまとめていきます。
戦略2:光を浴びる。
朝起きられない、どうしても二度寝してしまう、午前中は頭が働かない、という悩みは、サーカディアンリズム(体内時計)の調整が上手くできていないために起こる現象です。
これらの症状が重くなると、睡眠覚醒リズム障害という病気となります。根性でどうにかできるものではなく、れっきとした病気なので、病院で治療を受ける必要があります。
病院に行くほど深刻ではないと感じる場合は、
日常的に光を活用することで、改善することができます。
脳全体の活動を静める働きを持つ、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンという物質が睡眠に非常に影響を及ぼします。
メラトニンは夜暗くなると分泌され、朝光を浴びることで、分泌が止まります。
朝にメラトニンの分泌を止めておかないと、日中に眠くなってしまったり、頭がボーッとしてしまうという症状が起こります。
また、朝の早い段階でメラトニンの分泌を止めることで、夜にメラトニンを活発に分泌できるようになります。つまり、
朝光を浴びることで、夜にグッスリ眠れるようになり、睡眠の質を上げることができるのです。
行うことは単純で、目から光を浴びるだけです。具体的には、
●起床後カーテンを開け、光を浴びる
●窓を開けて外を眺めるとさらに良い
●通勤や通学時に、時折意識的に空を見上げる
これらのことを意識するだけで、確実に目の網膜に光を当てることができます。その結果、
同調因子が強化され、体内時計の調整が行われやすくなります。
光の活用は他にもあります。多くの人はアラーム式の目覚ましを利用していると思いますが、それですっきり起きられない人は、目覚ましも光を活用するのがいいと思います。
そもそもアラーム式の音で目覚めるものは、脳に負荷がかかってしまいます。音による刺激は、メラトニンの分泌を調整するわけではなく、脳のことはお構いなしに急激に覚醒させてしまいます。メラトニンの分泌を抑えているわけではないため、アラームを止めてすぐ二度寝をしてしまうという事態になってしまうのです。
なので、目覚ましにも光を活用し、メラトニンの分泌を抑えることで、すっきりと覚醒することができます。具体的には、
●タイマー式のライトを利用する
●タイマー式でカーテンが開くようにする
などの方法がおすすめです。まぶたを閉じていても、
まぶたを通過して光が網膜まで届きます。
目を開けている状態で光を浴びるよりは吸収量が少ないため、瞬時に覚醒することはありませんが、それゆえ脳に負担をかけず、ゆっくりと覚醒することができます。光の刺激で起きる場合は、メラトニンに働きかけているため、二度寝してしまうということも起こりづらくなります。
戦略3:他人とふれあう。
他人と会話することも、睡眠モードから活動モードへ脳をチェンジする、効果的な刺激を与えてくれます。相手の発言に反応をする会話は、脳にとって高度な情報処理を必要とする作業であり、
脳全体を活動状態に切り替えてくれる仕組みが、脳には備わっています。
つまり、起床後早いタイミングで他人と会話をすることで、脳を活動的にすることができます。
同居人がいる場合は、起きてすぐ同居人と会話をする、一人暮らしで会社勤めの方は、出社してすぐ同僚と会話をすることで、脳が活動モードになります。
その際に、「おはようございます」など単純な挨拶ですますのではなく、ちょっとした会話をすることが重要です。単純な挨拶は脳にかかる負担が少ないため、そこまで活動モードに変わってくれません。簡単かつ効果的な会話としては、
●天気や流行などちょっとしたことを話す
●挨拶だけではなく、相手の名前を必ず言う
などです。世間話が難しい人は、相手の名前を言うだけでもそれなりに効果があります。名前を思い出すには脳の前頭葉が働くため、挨拶だけに比べてはるかに脳が活性化されます。
戦略4:朝食を整える。
体内時計の調節には、朝食も重要です。
朝食をとり、胃腸を働かせる、よく噛んでコレシストキニンという脳内ホルモンを増加させることで、脳を睡眠モードから活動モードに切り換えてくれます。
朝食事をすることで同調因子が強化されるため、体内時計が調整されるのです。
朝食時にどのような栄養をとった方がいいかというと、グルコースと呼ばれるブドウ糖が必要です。
脳は身体全体の2%程度の質量であるものの、1日に消費する総エネルギーの、20~30%を必要とします。
そのとき脳のエネルギー源となるのがグルコースです。グルコースの元になるグリコーゲンは肝臓に蓄えられるのですが、眠っている間にかなりの量を消費してしまうため、起床時に不足がちとなっています。
朝食を完全に抜いてしまうと、昼食をとるまで脳のエネルギーが不足している状態になってしまうため、頭が働かないのです。
ちなみに、グルコースが不足し続けると、脂肪を分解してケトン体という別のエネルギー源を作ってくれるのですが、本来グルコースがエネルギー源のところを、ケトン体に変更するためには数週間から数ヶ月かかると言われています。既に糖質制限を始めている人や、始めようと思っている人であれば、脂質をとればいいのですが、そうでない人は糖質であるグルコースをとりましょう。
では具体的にどうするかというと、
●朝に、お米やパンなど、炭水化物を食べる
●朝食を流動食で済ます場合は、ガムなどを噛むことで脳への血流を増やす
この二つを意識しましょう。
つまり、朝食に炭水化物をとり、噛む動作をして顎を動かしておけば問題ありません。ただ、パンだけを食べる場合は、消化吸収が早すぎて、血糖値を下げる働きを持つインスリンの分泌が促進され、血糖値が下がりすぎてしまう可能性があります。
それを防ぐために、脂肪分も一緒にとるようにしましょう。パンにバターやマーガリンを塗るだけで十分です。
糖分も脂肪分も必要な量をとるのであれば問題はありませんが、とりすぎると肥満の原因にもなります。バランスに注意しましょう。
戦略5:体温をコントロールする。
体温と睡眠は非常に深い関係にあります。睡眠覚醒リズムと同様に、体温にもリズムがあり、これも同調因子を活用することでコントロールすることができます。
心臓や大動脈を流れる血液の温度である深部体温が体温のリズムに関係しています。
健康時、深部体温は毎日一定のリズムを刻みます。
深部体温は、起床後緩やかに上昇し、夜暗くなると緩やかに下がっていきます。
日中に深部体温をしっかり上げることが、頭をしっかり働かせるためにも、質のいい睡眠のためにも非常に重要です。
脳は体温が低下すると眠気を感じます。注意が必要なのは、体温が低いと眠くなるのではなく、
体温が低下するという温度変化によって眠くなるということです。
そのため、日中に体温をしっかり上げておかないと、夜に十分な体温低下が起こらないため、寝つきが悪くなってしまいます。
この体温リズムは睡眠覚醒リズムと表裏一体なので、良い体温リズムを手に入れられれば、良い睡眠リズムも手に入るということです。
では具体的に何をすると睡眠に効果的かというと、
●夕方や夜に、筋トレやウォーキングといった中強度の運動をする
●夕方や夜に、入浴する
こうすることで、自然と眠りにつける状態が生まれます。運動も入浴も、どちらとも体温を上げる効果があります。通常よりも上がった体温は、その後自然といつもの体温まで下がるという変化が起こるため、眠気が発生するのです。
入浴に比べ、運動の方が適度な疲れも感じるため、睡眠効果はさらに高いと言われています。
注意が必要なのは、寝る直前にはどちらも行わない方がいいということです。上昇した体温は、時間をかけて緩やかに低下していきます。体温が上がる行動を、寝る直前に行ってしまうと、体温が低下するための十分な時間が確保できていない状態で眠ろうとするので、寝つきが悪くなります。
運動や入浴は、就寝の1-2時間前までに行うようにし、体温の低下を利用してぐっすり眠りましょう。
戦略6:寝だめを制する。
脳には、過去二週間くらいに経験した睡眠不足を、普段より長めに眠ることで補おうとする性質があります。これを跳ね返り現象といいます。
日常的な睡眠不足が跳ね返り現象を引き起こし、普段より長めに眠ることにより、体内リズムが狂ってしまうのです。さらに恐ろしいのが、
体内時計を大幅にずらしてしまうと、元に戻すまでに数日間かかってしまう場合もあります。
例えば、土日に寝だめをしようと思い、普段よりもたくさん寝たとします。そうすると、体内リズムが大幅にずれてしまい、元のリズムに戻るのに最大で4日かかることもあります。
睡眠不足のせいで寝だめが引き起こされ、寝だめのせいで体内リズムが狂う。そして体内リズムが狂ってしまうため、朝の目覚めも夜の寝つきも悪くなり、また睡眠不足が引き起こされる、という負のスパイラルが発生してしまうのです。
また、体内リズムのズレはホルモンの分泌のズレも発生させます。肉体的、精神的にストレスがかかると、ストレスホルモンと呼ばれるグルココルチコイドが分泌されます。グルココルチコイドの分泌にも1日のリズムがあり、起床直前に最も増加し、起床後は徐々に減少していきます。起床に伴うストレスに対抗するために、このようなリズムを持つと言われています。
体内時計のリズムに合わせて起床していれば、グルココルチコイドの分泌のタイミングがバッチリ合うのですが、
体内時計がズレてしまっている場合、グルココルチコイドの分泌のタイミングと、起床のタイミングがずれてしまいます。
そのため、起床のストレスに対抗することができず、すっきり起きられないのです。
その他にも、自律神経の変換もズレてしまいます。自律神経は眠っている時に副交感神経、起床とともに交感神経へとシフトするのですが、これも体内時計によって管理されています。そのため、体内時計がずれていると、副交感神経から交感神経へのシフトチェンジが起床のタイミングと合わず、すっきり起きられません。
このように、寝だめによる体内時計のズレは、神経、ホルモン、という生物にとって重要な要素に影響を与えてしまうのです。
では体内時計がズレないようにしつつ、睡眠不足を解消するためにはどうすればいいかというと、
●たくさん寝たいときは、起床時刻は一定にして、就寝時刻を早める
●日中に10~20分程度の昼寝をする
ことが効果的です。
体内時計のズレに影響するのは、就寝時刻ではなく起床時刻のずれです。
つまり、起きる時間が一定であれば、眠る時間は変動しても構いません。遅く寝ても大丈夫ということではなく、いつもより早く寝ても大丈夫ということです。遅く寝てただただ睡眠不足を促進させてしまっては意味がありません。
また、10~20分程度の昼寝はとても効果的です。昼寝をすることで体と脳を十分休ませることができます。なぜ10~20分程度かというと、それ以上眠ってしまうと、脳が本格的に眠りにつこうとするため、覚醒するための負荷が強くなってしまうからです。つまり、昼寝をしすぎると、起きた時に頭が働かない状態になってしまうのです。
脳と体を休めるのに十分かつ、すっきりと目覚められるため、10~20分程度は非常に効果的な昼寝時間だといえます。
以上が、最高の睡眠を手に入れるための戦略とテクニックです。
まずはサーカディアンリズムと呼ばれる体内時計の存在を認識し、それを整えるために活用できる、
光、他人、朝食、体温、昼寝、について理解しましょう。
体内時計は一般的な時計のように、時刻を確認するだけのものとは違い、体や脳の働きを管理しているものです。光、他人、朝食、体温、昼寝、といった戦略とテクニックを用いて、体内時計を常に正していきましょう。そうすれば睡眠のリズムも整い、質の高い眠りを手に入れることができるようになります。
Point
体内時計は、体と脳を管理するタイムキーパー。
3:快眠のために、手軽に行える睡眠テクニック。
これまで体内時計の重要性と、それを整えるために必要なことを説明してきました。ここからは、より簡単にできる快眠テクニックを紹介していきます。
快眠テクニック1:ゆらぎの音を活用する。
神経が高ぶっている時に、いつもは気にならない些細な音が気になってしまうことがあります。時計の音や、冷蔵庫の音など、いつもは全く気にならないのに、一旦気になり始めると、なかなか耳から離れなくなってしまいます。
このような現象は、眠らないといけないという焦りから、聴覚が敏感になってしまうことで起こります。試験の前日や、大事なプレゼンの前日などに起こることが多いです。
こういうときにおすすめなのは、音を排除するのではなく、気にならない別の音で隠してしまう方法です。これは、マスキングと呼ばれる方法で、耳鳴りの治療にも応用されています。
では、どのような音でマスキングをすればいいかというと、1/fのゆらぎの性質を持つ音が適しています。
1/fのゆらぎとは、簡単にいうと「規則性」と「不規則性」のちょうど中間と考えてください。
つまり、時計のような規則的な音と、街の喧騒のような不規則的な音のちょうど中間であり、規則と不規則がいい具合に調和している状態の音です。
1/fのゆらぎには、脳の視床下部に作用し、自律神経のバランスを整える作用があります。
そのため、1/fのゆらぎによりリラックス効果を得られるのです。
この1/fのゆらぎを持つ音の代表は、自然音です。
波の音や、そよ風が木々を揺らす音、雨音や、焚き火の音などが、1/fのゆらぎを持つ音です。
このような自然音を就寝時に流すことで、煩わしい音をマスキングし、リラックスして眠りにつきやすくなります。
ただし、いくら1/fのゆらぎだからといって、音量が大きすぎると、逆に交感神経を刺激してしまい、眠りを妨げてしまいます。かろうじて聞こえるぐらいの音量がベストです。
つまり就寝時に音が気になったりする方は、
●1/fのゆらぎを持つ、自然音を流しながら就寝する
●かろうじて聞こえるぐらいの音量で流す
ことで、リラックスして眠りにつけるようになります。
快眠テクニック2:入眠儀式を利用する。
儀式というと堅苦しいイメージがありますが、なんのことはなく、眠る前に毎晩行うようなことを指す用語です。寝る前に歯を磨く、着替える、トイレに行く、など、毎晩決まった行動をするのであれば、それが入眠儀式です。
入眠儀式には、脳を睡眠に導く効果があることが知られています。
就寝直前に決まった行為を行なっていると、脳が刺激を受けるようになり、その行為を行なっただけで眠りにつきやすい状態になってくれます。
その他にも嬉しい効果があります。布団に入ってから、実際に眠るまでの時間を睡眠潜時といいますが、
入眠儀式には、睡眠潜時の時間を短縮する作用があります。
布団に入ったものの、なかなか寝付けない、という事態も改善できるのです。
入眠儀式を活用するためには、就寝直前の生活習慣を変えないようにすることが大事です。翌日に大事な用事があると、普段の生活習慣を変えてしまうことがあり、それが、なかなか寝付けない原因となってしまいがちです。大事な日の前日ほど、いつも通りの行動を心がけましょう。
入眠儀式を活用するために大事なのは、
●就寝直前の生活習慣を守る
●就寝直前に決まった習慣がない方は、何か簡単な習慣を用意する
●就寝直前の習慣は、激しい運動など交感神経を刺激するものではなく、副交感神経を刺激するようなリラックスできることにする
これらを意識して、入眠儀式を取り入れ、快眠を手に入れましょう。
快眠テクニック3:カフェインと上手に付き合う。
カフェインは上手に摂取すれば、寝つきも良くなり、睡眠の質も高まります。しかし摂り方を間違えると、寝つきが悪くなってしまうこともあります。
そもそも、カフェインは摂取後30分ほどで効果が現れ始めます。3時間後に効果が最大になり、完全に効果が切れるのは5~7時間後になります。
もちろん個人差はありますし、毎日飲んでいるような人は耐性がついているため、そもそもカフェインの効果があまり出ない人もいます。そのため、カフェインを遅い時間にとっても、よく眠れる人もいます。ここらへんは自分の状態をみて判断するしかありません。
寝つきが悪いと悩んでいる人は、
夕方以降のカフェイン摂取を控えてみると、改善する可能性があります。
夕方以降のカフェインを控える際に、注意が必要なのは、コーヒーだけがカフェインではないということです。
紅茶や緑茶、烏龍茶にもカフェインが含まれていますし、
栄養ドリンク剤や、総合ビタミン剤にも含まれていることがあります。
コーヒーを飲まないことで安心するのではなく、自分の飲んでいるものにカフェインが入っているかどうかはしっかり確認しましょう。
ここまではカフェインの悪い面を伝えてきましたが、付き合い方さえ間違えなければ、カフェインは睡眠の質を高めてくれます。
カフェインは、脳のメインスイッチに相当する脳幹網様体に作用し、
脳全体を休息モードから活動モードに切り替えてくれます。
この働きを有効活用するために最適なのは、朝にカフェインを摂取することです。カフェインは、脳を眠りから活動状態へと切り替える手段として利用できます。
先にもお伝えしたように、起床後脳を活動モードにし、日中活発に活動することで、その分睡眠の質が高まります。つまり、カフェインは上手に摂取すれば、睡眠の味方となるのです。
まとめると、
●起床後のカフェイン摂取は、脳を活動モードに切り替える手段として有効
●カフェインの効果が切れるまでに5~7時間かかるため、夕方以降の摂取は控える
●カフェインは意外なものにも含まれているので、なにが入っているかチェックする
カフェインと上手に付き合って、活動と休息の切り替えに役立てましょう。
快眠テクニック4:夜は光をなるべく排除。
夜になったら、目に入る光をなるべく減らしましょう。光によって睡眠モードから活動モードに切り替えてくれるというのは説明しましたが、活動モードから睡眠モードに切り替えるためには、逆に光を目に入れないようにすることが大事です。
睡眠ホルモンであるメラトニンは、500ルクス(照度=明るさの単位)以下になると分泌が始まるとされています。質の高い睡眠のためには、
メラトニンを2時間以上分泌する必要があります。
就寝2時間前からは、パソコンやスマートフォンの使用を抑える、モニターモードをナイトモードにするなど、目から入る光の量を減らすことが大切です。
また、部屋の明るさも重要です。部屋を直接蛍光灯で照らした場合、照度は1000ルクス程度になります。500ルクスを超えているため、メラトニンが十分に分泌されません。
睡眠のためには、間接照明が適しています。
蛍光灯で直接部屋全体を照らすのではなく、壁や天井などに反射させ、間接的に柔らかな光で照らすことで、照度が500ルクス以下になり、メラトニンの分泌が促されます。
間接照明だけでは、読書や家計簿などの作業はしづらいですが、その場合はスタンドライトなどで、本やノートだけ照らしましょう。部分的に照らすことで、目の網膜に届く光の量がはるかに少なくなります。
まとめると、
●質の高い睡眠のためには、就寝2時間前から、メラトニンを分泌する必要がある
●メラトニンは照度が500ルクス以下の状態で分泌される
●部屋の明かりを500ルクス以下にするには、間接照明が適している
●パソコンやスマートフォンは1000ルクス程あるので、注意が必要
つまり、なるべく目に光が入らないようにすることが大事です。ちなみに、コンビニは意図的に店内を明るくしており、店内の照度が平均すると2000ルクスもあります。短い時間であれば大丈夫ですが、少し長居をしただけでもメラトニンの分泌が止まってしまうので、注意が必要です。
快眠テクニック5:お風呂を工夫する。
睡眠は、深部体温の変化や、自律神経のバランスと密接に関わっています。深部体温が低下することで、脳は睡眠モードに切り替わりますが、お風呂を工夫することで、深部体温を確実に低下させることができます。
脳が睡眠を必要とする理由の一つは、脳の温度を冷やす必要があるからです。そのため睡眠中は体温を低下させ、脳を集中的に冷却しようとするのです。
先にも説明したように、脳は体全体の2%程度しかないにも関わらず、消費するカロリーは全体の20~30%にもなります。つまり、
最も熱を生み出す臓器の一つが脳なのです。
消費したカロリーは最終的に熱に変換されるため、外部へ取り除く必要があります。この作業は、お風呂を工夫することで上手に行うことができます。
眠りのために最も理想的なのは、
就寝の2~3時間前にお風呂を済ませることです。
お風呂に入ったりシャワーを浴びることで、外部から熱を加えられ深部体温が上昇します。体温はお風呂から上がると同時に低下していき、完全に低下しきるまでに2~3時間かかります。そのため、就寝2~3時間前がベストなのです。
また、お風呂の温度も重要です。睡眠にとって理想的と言われるのは、
お風呂によって深部体温が0.5~1.0度ほど上昇することです。
そのため、38~40度のぬるま湯に20~30分程度入るのがいいと言われています。熱いお湯が交感神経を刺激して、脳を活動モードにするのに対し、ぬるま湯は副交感神経を刺激して、脳をリラックスさせてくれます。睡眠のためにはぬるま湯の方が適しているのです。
しかし、熱いお湯にも喜ばしい効果があります。熱いお湯を浴びることは肉体的ストレスとなりますが、これが引き金となりヒートショックプロテインが生み出されます。
ヒートショックプロテインとは、傷んだ細胞を修復する働きをもつタンパク質であり、免疫力を強化する働きや、肌を若々しく保つ働きもあります。
さらに喜ばしいのは、
ヒートショックプロテインの働きは、数日間続いてくれることです。
つまり、毎日熱いお湯を浴びる必要はなく、週に一回程度で十分です。そのため、休日の夕方あたりに熱いお湯を利用することが好ましいです。熱いお湯は交感神経を刺激するため、睡眠を遠ざけてしまいますが、就寝から離れたタイミングで行えるのであれば問題ありません。刺激を受けたとしても、それがおさまる十分な時間が確保できるため、夕方あたりに浴びられるのであれば、睡眠には影響しないのです。
まとめると、
●38~40度のぬるま湯を、就寝2~3時間前に浴びる
●熱いお湯を浴びるのは、就寝までに十分な時間を確保できる休日などに限定する
こうすることで、ぬるま湯による質の高い睡眠と、熱いお湯による免疫力の向上・細胞の修復というヒートショックプロテインの効果、両方を獲得することができます。
以上が、快眠のために今すぐ簡単にできるテクニックです。
音が気になる人は1/fのゆらぎを利用し、寝るスイッチを作動させるために入眠儀式を用意し、活動モードと睡眠モードの切り替えとしてカフェインと上手に付き合い、間接照明やスタンドライトを利用して光の量を調節し、お風呂のタイミングや温度を工夫して深部体温をコントロールしましょう。
簡単なテクニックですが、効果的に睡眠を行える方法なので、結果として体内時計の調整にもなります。
無理なく簡単にできる方法なので、ぜひやってみてください。
Point
寝るという動作は、ちょっとした工夫でコントロールできる。
4:睡眠日記で、自分にあった睡眠時間をみつける。
質の高い睡眠のための戦略や、簡単にできる快眠テクニックをお伝えしてきましたが、実際自分にどれだけの睡眠時間が必要なのかを把握することも重要です。
最適な睡眠時間は、個人間で差があります。万人に当てはまる睡眠時間は存在しないというのが医学研究の結論です。
また、同じ個人でも、自身の状態によって、短い睡眠時間が適している時期や、長い睡眠時間が必要な時期があります。つまり、睡眠時間は自分の状態をみながら柔軟に対応する必要があるのです。
自分に必要な睡眠時間を把握するためには、睡眠日記をつけることがおすすめです。
ポイント1:まずは日記でデータを取る。
必要な睡眠時間には個人差があるため、まずは自分のデータを調べる必要があります。簡単にデータを取る方法が、睡眠日記をつけるという方法です。
睡眠日記を2週間ほどつけるだけで、自分が必要としている睡眠時間が判明します。
やり方は簡単で、まず睡眠に関する時間を記録します。
●床についた時間
●実際眠りについたであろう時間をわかる範囲で
●夜目覚めた場合は、その時間
●朝目覚めた時間
あわせてその日のコンディションについて、5段階で評価して記録します。最高のコンディションなら5、最低なら1とします。評価項目は、
●日中の気分(やる気や集中力など)
●日中の活動(頭が働く、体がよく動くなど)
●日中の眠気
この3つです。このような記録を2週間ほどつけることで、何時間眠るとコンディションが良い状態になりやすいのか、何時に寝て、何時に起きると調子がいいのか、を判断することができます。ぜひやってみてください。
睡眠日記の結果を読み取る際に注意が必要なのが、
睡眠には固有のサイクルがあり、このサイクルにも個人差があるということです。
睡眠には、浅い眠りのレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠があり、この2つのセットを睡眠の1サイクルとカウントします。
この1サイクルは一般的には約90分といわれるのですが、サイクルが短い人もいれば、長い人もいるのが現状です。
そのため、基本的には睡眠サイクルが終わるタイミングで目覚めるのが理想的と言われてはいるものの、90分区切りが当てはまらない人も大勢いるのです。
だからこそ、自分の睡眠サイクルを知るためにも、睡眠日記が効果的です。
90分区切りで起きて調子が良ければ、一般的な睡眠サイクルを持っていますし、80分区切りが調子良ければ、あなたは80分の睡眠サイクルを持っているということになります。
睡眠日記を活用して、自分の睡眠サイクルも確認しましょう。
ポイント2:精神状態で睡眠時間は変わる。
毎日6時間以下の睡眠で、熟眠感を得られている人はショートスリーパと呼ばれます。9時間以上の睡眠が必要な人はロングスリーパーと呼ばれます。ともに、全人口の5~10%を占めています。
2つのタイプは精神的なストレスについての対処が異なるといわれています。
失敗や悩みを正面から受け止める傾向があり、その分脳が酷使されるため、睡眠時間が長くなる。
失敗を気にせず、悩みを軽く受け流す傾向があり、脳の疲労が少なく、短い睡眠時間で済む。
といわれています。自分はロングスリーパーでもショートスリーパーでもないから関係ないと思われるかもしれませんが、紹介したように、
精神的なストレスによる、脳の疲労具合が睡眠時間に関係しています。
そのため、誰にでも、適した睡眠時間の変化が起こるのです。精神的なストレスを多く感じた日には、いつもより長い睡眠時間が必要になりますし、逆にいつもに比べて全くストレスを感じなかった日は、短い睡眠時間で問題ない可能性があります。
自分の精神状態をみながら、柔軟に睡眠時間に手を加えていきましょう。
ポイント3:年齢によって睡眠時間は変わる。
一般的に、年齢を重ねるにしたがって、睡眠時間は短くなる傾向があります。これは、成長ホルモンの分泌が関係しています。
ノンレム睡眠は4つのステージに分けられており、数値が大きくなるほど深い眠りの状態を示しています。
成長ホルモンは、ノンレム睡眠のステージ3と4の深い睡眠状態の時のみ分泌されます。
成長期には成長ホルモンが不可欠であり、ホルモンがしっかり分泌されるように、ステージ3と4の睡眠を十分とる必要があるため、睡眠時間がある程度必要となります。
一方、歳をとると成長ホルモンの分泌量が低下するため、ステージ3と4を何度も繰り返す必要がなくなり、その結果睡眠時間が短くても大丈夫になるのです。
成長期が終わっても、成長ホルモンの分泌は起こります。
成長ホルモンには、筋肉を修復し増強するという働きもあるからです。
激しい運動をした日に、夜はぐっすり眠れるというのは、運動により筋肉が破壊され、その修復のために成長ホルモンが必要となるからです。
成長ホルモンが必要となれば、長めの睡眠時間が必要となります。年齢や、日中の運動量も考慮して、最適な睡眠時間をみつけだしましょう。
ポイント4:季節によって睡眠時間は変わる。
熊などの野生動物が行う冬眠ほどではないですが、人間の脳も季節により変化が起きています。
人間の脳は、日照時間に反応して、睡眠の量を増減させています。
質の高い睡眠には体内時計の調整が必要と説明してきましたが、日照時間が短くなることにより、光の摂取量が減少することが、冬の方が睡眠が長くなる理由です。
実際、睡眠時間の平均は、夏に短くなり、冬に長くなる傾向があります。大事なのは、温度が影響しているのではなく、日照時間が影響しているということです。
ここで問題になるのが、日照時間のリズムと気温のリズムに1ヵ月程のズレがあることです。
日照時間は夏至(6月下旬)に最も長く、冬至(12月下旬)に最も短くなります。気温は8月上旬が最も暑く、2月上旬が最も寒くなります。
日照時間が長いのに寒かったり、日照時間が短いのに暑かったりという光と気温のズレが、脳と体のバランスを崩しやすい原因になります。
日照と気温のズレは、春先と秋口に最大となります。 脳と体のバランスが崩れるために、睡眠の問題ももちろんですが、自律神経の失調症状や、うつ病の発症が多くなるのもこの時期です。
こういう季節にこそ、さきほどお伝えした快眠テクニックなどを駆使して、脳と体のバランスをうまく保つようにしてください。
ポイント5:月経周期で睡眠時間は変わる。
女性の場合は、
女性ホルモンの周期によって睡眠時間が異なります。
●卵胞期(月経が終わってから次の排卵までの約二週間)
この時期は女性ホルモンの一種である、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌量が増加します。これにより、全身の活動量が増加し、眠気を感じにくくなり、睡眠時間は減少します。
この時期は女性ホルモンの一種である、黄体ホルモン(プロゲステン)の分泌量が増加します。これにより、全身の活動量が低下し、眠気を強め、睡眠時間は増加します。
この卵胞期と黄体期の周期により、睡眠のリズムが変わるのです。ちなみに、黄体期にも卵胞ホルモンは分泌されますが、それよりも黄体ホルモンの影響が大きくなるため、活動量が低下するのです。
ホルモンの影響を正しく理解し、それぞれのタイミングに合わせて、適した睡眠時間を見つけ出しましょう。
女性の方は、今自分の体が卵胞ホルモンに支配されているのか、黄体ホルモンに支配されているのかをしっかり認識し、自分の月経周期に適した睡眠時間の調整を行なってください。
自分に適した睡眠時間を把握する方法と、睡眠時間に変化が生じる場合を説明してきました。大事なことは、
睡眠日記をつけて、自分にとっての最適な睡眠時間と睡眠サイクルを把握することです。
最適な睡眠時間は季節や年齢などで変動するものなので、一度把握して終わりではなく、定期的に日記をつけることをおすすめします。
Point
睡眠日記をつけることで、最高のエネルギー回復を実践できる。
5:睡眠に関わる誤解。
睡眠薬やお酒など、睡眠に影響を与えるものはたくさんありますが、正しく理解されているものは少ないようです。
ここでは、睡眠に関する誤解と、正しい情報をお伝えします。
誤解1:睡眠薬は危険ではない。
ドラマや小説などで、睡眠薬の多量摂取により死につながるという描写がありますが、睡眠薬として現在最も一般的に使用されているベンゾジアゼピン類であれば、どれだけ多量に摂取にしても、睡眠薬の効果により死に繋がることはほぼありません。
60年ほど前はバルビツール系の睡眠薬が一般的であり、こちらは大脳だけではなく脳全体の機能を沈静化させる働きがあったため、多量摂取することで呼吸中枢まで麻痺してしまい、呼吸が停止し死亡につながってました。
ベンゾジアゼピン類の睡眠薬は主に大脳のGABAニューロンという、大脳全体の神経活動を抑制する働きを担う部分に作用し、その結果睡眠を誘発するのです。
大脳だけに働きかけるので、呼吸が停止するといった危険はありません。睡眠薬の多量摂取による二次的効果として、嘔吐物が喉につまり死亡するとか、足がふらつき転落死するなどはありますが、
ベンゾジアゼピン類睡眠薬の多量摂取が、直接死を引き起こすということはありません。
ただ、一度に多量摂取することで脳にダメージを与えてしまいますので、用量は必ず守りましょう。
睡眠薬を服用する際の注意点はいくつかあります。
●服用は短期間、最小限で行う
睡眠薬は長期間飲み続けるべきではありません。少なくとも、3ヵ月以上飲み続けることは控えましょう。睡眠薬は不眠の根本的な解決にはならないからです。基本はこれまで説明してきた戦略やテクニックで体内時計を整える努力をし、睡眠薬は補助として認識しておくのが好ましいです。過度なプレッシャーを感じたり、不眠の原因がはっきりとしていて、それが一時的なものであれば、睡眠薬を積極的に服用しても全く問題ありません。
●睡眠薬のやめ方
長期の服用はよくないとなると、急にやめてしまう人もいます。長期間服用していた人が急に睡眠薬をやめた場合、ほとんどの場合で極度の不眠に襲われます。やめるときは、徐々に量を減らしたり、休日に飲まないでみて、問題がなければ飲まない日を増やしていくなど、段階を踏んで減らしていくことが重要です。
睡眠薬は危険なものという認識が一般的に広がっていますが、注意点を守って正しく使っているのであれば、タバコやお酒よりもリスクが少ないというのが、大半の医師の見解です。
満足な睡眠が取れていない方は、睡眠薬をつかってみるのもいいかと思います。
誤解2:寝酒は睡眠にとって好ましくない。
アルコールに入眠効果があるのは事実です。アルコールは睡眠薬と同様に、GABAニューロンを刺激し、大脳の活動を抑えるため、眠りを誘ってくれるのです。ですが、
アルコールは入眠は促すものの、睡眠の後半では眠りを浅くするという作用があります。
眠って3時間ほど経つと、ノンレム睡眠のときに深い睡眠に移行するのを妨げる効果があらわれてしまうのです。
さらに、
アルコールには利尿作用があり、睡眠の途中で目が覚めてしまう原因となります。
アルコールを摂取すると、抗利尿ホルモンという尿の産生を抑えるホルモンが分泌されなくなります。尿の産生が抑えられなくなるため、結果として尿が増えてしまうのです。
このような理由から、アルコールは睡眠にとって好ましくないというのが医学的な見解です。
アルコールは適量を楽しむぐらいにして、寝酒として利用するのはやめておきましょう。
誤解3:夜中に目がさめることは問題ではない。
眠っている間は一晩中覚醒しないのが当たり前、というのは間違った認識です。また、この間違った認識により、不眠を助長してしまう可能性があります。
睡眠中の脳波を測定すると、
睡眠の途中で一時的に覚醒状態にあることは、珍しくありません。
ではなぜその時のことを覚えていないのかというと、覚醒が一瞬であるためです。
脳の海馬に入った情報は、5分程度の時間をかけて脳内に定着します。つまり、入眠などで、5分とたたずに意識がなくなった場合には、その直前の情報は記憶に残りません。
今にも眠りそうな人に何かを話したとしても、目覚めた時にだいたい覚えていないのは、情報が脳に定着するのに十分な時間が確保できなかったためです。
つまり、睡眠サイクルの区切りのタイミングで、覚醒状態になることがありますが、覚醒してまたすぐ眠りにつくため、そのときの記憶が残らないということです。
覚醒自体は割と起こるものなので、問題ではありません。
問題なのは、覚醒した後、すぐにまた眠りにつけない状態です。
問題の本質を正しく理解していないと、目が覚めることで心理的プレッシャーを感じやすくなり、脳が過敏に反応するため、再度眠りにつくことが困難になってしまいます。
覚醒することは大した問題ではないと理解し、落ち着いて次の眠りに就くようにしましょう。
また、実際は眠っているのに、眠っているという認識を持てない場合もあります。この現象にはマイクロスリープが関係しています。
マイクロスリープは短くて2秒、長くても1分以内の睡眠です。
あまりに短いため、本人に自覚されないことが多々あります。マイクロスリープは睡眠時間が短いのにも関わらず、睡眠の効果が高いことが知られています。このマイクロスリープは、一晩中横になっているのであれば、少なくとも何度かはとれているものです。
たとえ本当に一睡もできていなかったとしても、目を閉じて横になっているだけで、脳は睡眠と同じ一定の効果を得られています。
ですから、なかなか寝付けなくても、途中で目が覚めてしまっても、
焦らず、イライラせず、目を閉じてゆったりと横になっていましょう。
焦りや不安が、不眠を引き起こす原因となってしまいます。問題の本質を正しく理解し、無闇に焦ることなく、落ち着いて眠気が訪れるのを気長に待ちましょう。
このように、様々な間違った理解により、必要以上に焦りを感じたり、悪影響のある行動をしてしまったりします。
睡眠に関する正しい情報を理解し、都度正しい行動をとりましょう。
大抵のことは焦る必要のないことばかりです。
Point
誤解が不眠の症状を引き起こす原因となり得る
6:重度な睡眠障害は重病の可能性あり。
睡眠に対して問題を感じている場合、睡眠障害をもたらす病気にかかっている可能性もあります。代表的な病気を説明するので、セルフチェックを行ってみてください。
睡眠障害をもたらす病気1:睡眠時無呼吸症候群。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に無呼吸になる病気です。10秒以上の呼吸停止が、1時間に5回以上起こる、または一晩に30回以上起こる場合は、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群は原因により、3つのタイプに分類されます。
●脳の呼吸中枢に以上が生じることで発病する中枢型
脳から呼吸運動の命令が出なくなり、呼吸のための運動が停止します。そのため胸郭や横隔膜は動かず、静かに無呼吸が進行します。感染症による脳障害や、脳幹部の腫瘍や血管障害、首の怪我による神経の損傷により引き起こされるのが特徴です。
●気道の閉塞により呼吸が停止する閉塞型
脳から呼吸運動の命令は出てるものの、上気道が塞がってしまっているため呼吸ができていない状態です。呼吸のための運動は行われるため、胸郭や横隔膜は動きます。息が止まる直前まで大きないびきをかくというのが一般的で、肥満気味の方や、舌が分厚い方、アゴが細い方に多いのが特徴です。
●中枢型と閉塞型が混ざっている混合型
それぞれ原因は異なりますが、同じような症状が出ます。夜間に頻繁に目が覚め、質の高い睡眠がとれず、慢性的な睡眠不足に陥り、日中強い眠気に襲われます。また、起床時に頭痛が起こる人が多いのも特徴です。
中枢型の場合は、
脳幹部に何らかの原因となる元の病気があるはずなので、病院に行き、然るべき治療を受けましょう。
こちらのタイプでは、睡眠時無呼吸だけを治すというのは困難です。原因からしっかりと治療しましょう。
閉塞型の場合は、
上気道が塞がっているだけなので、空気が通るようにしてやれば解決します。
肥満気味であれば、ダイエットや運動を行うことで、上気道周囲の脂肪を減らすことでずいぶん改善されます。
これだけでは改善されない場合は、鼻腔持続陽圧法(別名CPAP)という治療を受けることで改善される可能性が高いです。こちらは病院にて治療を受けましょう。
どちらにせよ、睡眠時無呼吸症候群の場合は、深酒や睡眠薬は厳禁です。どちらも呼吸中枢を抑制する性質があるため、睡眠時無呼吸をさらに悪化させてしまうためです。
睡眠障害をもたらす病気2:うつ病。
うつ病の初期症状として不眠症が表れる場合が少なくありません。うつ病の睡眠障害は、他の不眠症とはかなり様子が違います。
うつ病による睡眠障害は、一般的に朝に症状が重くなる性質があります。
十分に睡眠がとれていないにも関わらず、早朝に目が覚めてしまうことが多いです。目は覚めるものの、朝は何をするのもつらくなり、ただただじっとしていることが多いです。一方、夜の入眠に関しては、何も問題がないケースが多いという特徴があります。
早朝に目が覚めた経験がある方は多いと思いますが、うつ病かそうでないかの基準としては、その時の気分の落ち込み具合がかなり違います。判断基準としては、
●十分な睡眠がとれていない
●早朝に目がさめることが多い
●そのとき、具体的な理由もなく気分がすごく落ち込んでいる
という場合はには、うつ病を疑ってみるのがいいと思います。
本人ではなく周りの人に注意して欲しいのは、うつ病を発症した方は、
うつ病のなり始めと、治りかけのタイミングで自殺を図る傾向があるということです。
症状が重いタイミングでは自殺を図るエネルギーも湧いてこない傾向があるのですが、少し症状の軽い、なり始めと治りかけのタイミングでは危険度が増すのです。
具体的な理由もなく、家族や友人が極度の早起きになり、起床直後の気分がひどく落ち込んでいるようであれば、病院に連れて行くことを強くお勧めします。
その際は、「うつ病かもしれないから」という伝え方ではなく、「不眠をなおしてもらおう」という伝え方をすることで、本人の抵抗を少なくすることができるかと思います。
睡眠障害をもたらす病気3:ナルコレプシー。
一概には言えませんが、周りの理解を全く得られないという点で、ナルコレプシーは最も辛い病気の一つと言えるかもしれません。
ナルコレプシーは別名居眠り病や、過眠病と呼ばれています。睡眠発作という症状が特徴的で、
1日に何度も、何の前触れもなく猛烈な睡魔に襲われ、突発的に数分から数十分眠ってしまいます。
普通の睡魔と違い、ナルコレプシーの睡眠発作は自分の意思でコントロールすることができません。はたから見たら単なる居眠りと思われるため、全く理解を得られないのです。
他にも、脱力発作という症状もあります。
激しい喜怒哀楽の感情を抱くと、手足の力がストーンと落ちてしまう症状です。
ひどい場合は、その場に倒れ込んでしまいます。
いずれも、脳の覚醒状態を維持する機能が低下するために生じると考えられています。薬物治療により改善はされるのですが、長期間の通院が必要とされています。
ナルコレプシーに関しては、本人というよりも周りの人の理解が最も大切です。ナルコレプシーのつらさを理解する努力をしていきましょう。
ただの不眠症だと思っていても、実は他の病気により引き起こされている場合もあります。
無呼吸症候群であれば周りの人が気づきやすいですが、うつ病やナルコレプシーの場合は、なかなか気づきづらいです。まずは様々な病気があるということを認識し、
自分によるセルフチェックや、家族に聞いてみるなどして、自分の症状をできる範囲で認識していきましょう。
そして、必要があれば病院に行き、然るべき治療を受けるようにしましょう。
Point
不眠の陰にある病気の存在を認識することが大事
以上が「脳力」をのばす!快適睡眠術」を読んで学んだことです。質の高い睡眠を手に入れるための方法と、睡眠に関する正しい理解についてまとめられています。
睡眠は、脳を含め体を整えるためにとても重要な行動です。個人差があるものですから、睡眠日記で自分に最適な睡眠サイクルや睡眠時間を把握して、体内時計を整えるために効果的な行動を意識的に行いましょう。
最後に本書の一節を引用して、この記事を締めたいと思います。
心地よい質の高い睡眠をとれば、あなたの人生は、より充実した、よりドラマチックな、そして、より幸せいっぱいのものになるはずです。
吉田たかよし 「脳力」をのばす!快適睡眠術
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