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死にたいわけでも傷つきたいわけでもなく、解放されたいだけ!【自殺予防の基礎知識 多角的な視点から自殺を理解する - 末木 新 - 】

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2013年8月に発行された、末木新氏著の【自殺予防の基礎知識 多角的な視点から自殺を理解する】を読んで学んだことをまとめています。

 

自殺予防の基礎知識 - 多角的な視点から自殺を理解する

自殺予防の基礎知識 - 多角的な視点から自殺を理解する

 

 

本書では、自殺の現状、自殺者の心理状況と自殺の危険性の評価基準、自殺希望者との向き合い方、そして自殺対策について書かれています。

自殺という現象は誰もが知っていると思いますが、では自殺とはどういう状況のことをいい、どのような理由で発生し、直面した時にはどのような対応が適しているのか、これらのことはあまり知られていないようです。

警察庁のデータでは、平成30年の日本の自殺件数は20,598件でした。これは自殺と明確に判断できた場合の数値なので、実際はもっと多いであろうと言われています。

自殺に関する基礎知識を学び、漠然と自殺を認識するのではなく、自殺に関する正しい知識を理解していきましょう。

自分自身や、家族や友人が自殺の危険に直面した際に、正しい知識をもとに、正しい対応ができるように、本記事で学んでいければと思います。

 

自殺はある日、突然起こります。本当は突然ではないのですが、自殺に初めて遭遇したときは、おそらくそのように感じると思います。

末木 新 多角的な視点から自殺を理解する

   

 

1:自殺って何?。

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自殺に関する研究は長年続けられていますが、自殺の定義は非常に難しい問題の一つとなっています。

 

デュルケームの定義。

フランスの社会学者であるエミール・デュルケームの「自殺論」社会学の研究として、非常に有名なものです。

その中で自殺は、

死が、当人自身によってなされた積極的・消極的な行為から直接・間接に生じる結果であり、しかも当人がその結果の生じうることを予知していた場合を、すべて自殺と名付ける。

と定義されています。ただし、この定義には批判的な意見がよせられています。積極的に直接死が生じた場合はイメージしやすいですが、消極的な行為により間接的に死が生じた場合が自殺と言えないのではないかという批判です。

例えば、飲まなければならない薬を飲まずに、病死してしまった場合は、薬を飲むという行為に対して消極的な行動をし、病死を間接的に引き起こした、といえるため、デュルケームの定義では自殺となってしまうのです。

このように、デュルケームの自殺の定義は、我々がイメージする自殺の定義よりも範囲が少し広いのです。

 

死の意図と結果の予測性。

デュルケームの定義よりも、より正確に定義しようとする動きの中で注目されたのが、死の意図と結果の予測性という考え方です。

・死の意図

本人に死のうとする意思があったということ。生命存続治療を続けないなどもこれにあたります。

・結果の予測性

デュルケームの定義同様に、自らの行為によって死が生じるということを事前に予測できたということ。

しかし、この定義にも問題があります。死の意図や結果の予測性には幅があるのです。

死の意図であれば、「絶対死のう」というのと、「死んでもいいや」と幅があり、結果の予測性であれば、「確実に死ぬだろう」というのと、「もしかしたら死ぬかもしれない」と幅があるのです。これだけ幅があるものを全て自殺としてしまっていいのかという問題があります。

さらに現実的な問題として、本人が亡くなった後に死の意図があったのか、結果の予測はできたのか、ということを知るすべがないということです。遺書があれば自殺とわかりますが、遺書がない場合は死ぬつもりがあったのかどうかを知ることは難しいというのが実際です。

以上のような問題はあるものの、自殺は現状では、

死の一形態であり、死を意図した者が死を生じるという結果の予測のもと、直接・間接的に自分自身に対して行なったこと。

と定義されています。つまり、

自殺は「死亡する」という現象の種類の一つであり、死にたいと思った人が、死ぬことができると思われる方法を行い、実際に死ぬことができたこと、となります。

 

自殺の一般的な流れ。

自殺にまつわる用語の中に、自殺念慮希死念慮というものがあります。

自殺念慮

自殺をしたいという思いのことです。

希死念慮

死にたいという思いのことです。死ぬ方法が、自殺という形で具体化されていない状態であり、自殺念慮の前段階といえます。

自殺念慮が発展すると、自殺企図に至る場合があります。

●自殺企図

自らの生命を絶とうとする行為のことです。結果として亡くなると既遂亡くならなかったら未遂と呼ばれます。

つまり自殺が起こる流れとしては、

死にたいという希死念慮が発生し、自殺をしたいという自殺念慮に変わり、実際に死のうと行動を起こす自殺企図に発展して、死んだら自殺、死ななかったら自殺未遂となります。

 

 

 

自殺とはどんなものなのか、自殺とはどういう流れで発生するのか、ということについて説明してきました。簡潔にいうと、

自殺とは、死にたいと思い、死ねると思う方法を実行し、死ぬことです。初めから自殺したいと考えることは少なく、「死にたい」という思いが発生してから、自殺したい、自殺を実行する、という流れになるのが一般的です。


Point
自殺とは、「死ぬ」という現象の一つの種類。

 

 

2:自殺の現状。

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自殺に関する世界の現状は、WHO(世界保健機関)などのホームページで、日本の現状は警察庁厚生労働省などのホームページで最新のものを確認することができます。

ここでは、執筆当時(2013年)のデータを元に、自殺の現状を紹介していきます。

 

世界的な自殺の現状。

WHO(世界保健機関)によると、世界では毎年100万人が自殺で亡くなっており、自殺率はだいたい16人/10万人と推計されています。つまり、10万人いたとしたら、16人が自殺で亡くなっているということです。これは、40秒に1人のペースで自殺していることになります。

ただ、発展途上国ではデータが十分に集計されていない国が多いという現状があります。そのため、おそらくもう少し自殺率は高いであろうといわれています。

過去45年の間に自殺率は60%ほど上昇しており、

2020年には30人/10万人程度にまで上昇すると予測されています。

つまり、現状の自殺率のおよそ倍になってしまうのです。

また、自殺率は高齢の男性が最も高いのが当たり前だったのですが、最近では若年層の自殺率が高まっているという特徴があります。

ちなみに、日本が自殺大国ということは間違い無いですが、実は先進国の中で一番自殺が多いのはロシアであり、日本は次いで二番目となっています。

 

アノミー的自殺。

社会の変革によって自殺が増加することをアノミー的自殺といいます。アノミー的自殺とは、

社会全体で共有されていた価値観・道徳・規範といったものが大きく転換することによって、自殺が増加するという現象です。

たとえば、日本では戦後に若年層の自殺率が増加しました。特に自殺率の上昇が著しかった世代は、終戦の影響により義務教育の内容が大きく転換した、という体験をしています。教育は価値観に多大な影響を与えるので、価値観の転換により自殺率が増加したと考えられています。

このほかにも、バブル崩壊後に自殺率が増加しました。これもまた、社会全体の価値観の転換による影響が大きいと考えられています。

 

自殺者の人口統計学的特徴。

自殺者に関する統計から、いろいろなことが読み取れます。

 

●自殺者の性別

自殺既遂(自殺を図り、実際に亡くなった)は女性よりも男性の方が多いですが、自殺未遂(自殺を図ったが、死ななかった)は男性よりも女性の方が多くなっています。

この現象は日本に限らず、全世界共通です。なぜこのようなことになるかというと、

男性の方が女性よりも、自らの体にダメージを与える能力が高いため、と考えられています。

 

●自殺者の年齢

自殺を図る人は、若年層よりも中高年の方が多くなっており、年齢が高くなるほど自殺の危険性が高まります

若年層の自殺率は年々増加傾向にありますが、それでも、

中高年の自殺率の方が高いのが現状です。

 

●自殺者の動機

自殺の動機は多い順から、健康問題>不詳>経済・生活問題>家庭問題>勤務問題、となっています。

これからもわかるように、身体的・精神的病気が自殺に多大に影響を与えています。

ただし自殺の動機というのは、自殺が起こったのちに推定されることがほとんどとなっています。遺書が残っているケースは全体の2~3割程度であり、その他は全て推測なのです。

遺書に関する研究によると、遺書がある場合には経済・生活問題が動機とされることが多く、遺書がない場合は健康問題が動機とされることが多いようです。つまり、

自殺の動機を裏付ける証拠がない場合、健康問題によって自殺したと推定される、というのが現状です。

 

●自殺者の職業と配偶関係

自殺者の職業として多いのは、無職者、つまり働いていない人です。無職であるということは金銭的な問題があるというのは想像しやすいと思いますが、経済的な問題は婚姻状態にも影響を及ぼします。

自殺者の配偶関係は多い順から、離別者>死別者>未婚者>有配偶者、となっています。つまり、未婚状態であるということは、自殺のリスクを高めるといえます。

未婚状態だと、妻や夫がいるという状態による、心理的サポートや結びつきを得られないことにより、自殺のリスクが高まると考えられています。

経済的な問題があると自殺のリスクが高まるし、婚姻関係を結ぶことが難しい場合が多く、婚姻関係がないとまた自殺のリスクが高まる、という負の連鎖が起こるのです。

 

●自殺の多い地域

自殺率は、北のほうへ行くほど高くなる傾向があります。つまり、 

日照時間や気温が自殺に関係するということです。

先進国のなかで自殺が一番多いロシアも北にありますし、日本国内でも沖縄よりも北海道の方が自殺者数は多くなっています。

 

自殺の危機に直面するほど、援助要請力が弱まる。

援助要請とは文字通り、援助(助け)を要請する(求める)ということであり、死にたくなった時に話を聞いてもらう、相談に乗ってもらう、というのは自殺者にとっての援助要請行動といえます。

自殺企図者(自殺を図った者)とそうでない人を対象に行った研究によると、自殺企図者の方が誰にも相談しない割合が高く、援助の専門家に対する相談は行っていなかった、という結果が出ています。さらに、

死にたい気持ちが高まるにつれて、誰かに相談しようという気持ちはなくなっていく、という負の相関関係もわかっています。

今まではうるさいぐらい相談してきてたのに、最近は何も言ってこない、という場合は注意が必要です。もちろん回復傾向にあるかもしれませんが、今まで以上に自殺への気持ちが高まったがために、他者に相談するという気持ちがなくなってしまっているのかもしれません。

 

 

自殺の現状はこのようになっています。自殺という現象自体は誰もが知っていると思いますが、実際にデータなどで読み解くことで、より自殺についての理解を深めてもらえればと思います。特に理解してもらいたいのが、

自殺は本人の問題だけで起こることではなく、社会に関する大きな変化なども影響するということです。

決して本人個人の精神的な問題だけだと考えずに、様々な視点から自殺を理解してください。

 

Point
自殺は様々な要因によって引き起こされる。

 

 

3:自殺者の心理状況

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自殺を計画する人というのは、心理的に追い込まれていると想像できますが、では実際に自殺に至るまでの心理的な過程はどのようになっているのでしょうか。

また、自殺を決意すればするほど他者への相談が無くなる傾向にあるのであれば、周りの人はどのように自殺の危険性を見極めればいいのでしょうか。

本章ではこれらのことについて紹介していきます。

 

自殺に追い込まれるまでの過程。

自殺というのは非常に多様な要因が重なり引き起こされるものであり、ただ一つの原因により起こることではありません。

まず、自殺者の心理状態のプロセスは、大きく分けて、発達段階と直前段階の二つに分けられます。

 

●自殺の発達段階

自殺の発達段階とは文字通り、自殺したいという気持ちが強くなっていく段階です。自殺は複雑な現象であるため、生物・心理・社会という3つの視点から考えていきます。 

 

生物学的要因

精神障害は自殺の危険性を高めることがわかっています。なかでも、うつ病統合失調症・アルコール/薬物依存、は特に危険性を高めます。

もう一つ、自傷行為への慣れも自殺の危険性を高めます。これは自分の体にダメージを与える能力が高くなることで、自殺の危険性があがるということです。

 

心理的要因

いじめを受けた経験や虐待を受けた経験が自殺の危険を高めることがわかっています。対人サポート資源(自分をサポートしてくれる人)が減少することも要因の一つです。

特定の性格傾向も要因の一つであり、未熟・依存的・衝動的・反社会的、といった性格がこれに該当します。

 

社会的要因

経済的な損失、社会的規範や価値観に大きな変化が生じている状況(アノミー的自殺)、などが自殺の危険性を高めます。

 

このように複数の要因により自殺は発達していきます。そして、

様々な要因が積み重なり、なにかしらのきっかにより自殺念慮(自殺したいという気持ち)が発生すると、自殺の企図(自殺を実行する)に繋がっていきます。

この状態になると、発達状態ではなく、直前段階となります。

 

●自殺の直前段階

自殺の直前段階では、満たされない欲求(耐え難い心理的痛み)、解決策の模索、苦痛に関する意識の停止(≒自殺)という3段階の流れが起こります。

満たされない欲求(耐え難い心理的痛み)、解決策の模索、の2段階は、誰にでも普通に起こる現象ですが、3段階目の意識を停止させるという特殊な選択をするかどうかが、自殺するかどうかの分岐点となります。

 

満たされない欲求(耐え難い心理的痛み)

満たされない欲求により、孤立感や無価値観といった心理的な痛みを感じる段階です。パートナーとの死別や、理解者の不在などで強く感じることがあります。

 

解決策の模索

満たされない欲求により心理的な痛みを感じているため、痛みを取り除く方法を模索する段階です。先にも書いた通り、ここまでの流れは誰にでも起こり得る現象です。

 

苦痛に関する意識の停止(≒自殺)

自殺者は、痛みを取り除くための解決策として、意識を停止させるという手段をとります。意識を停止させれば痛みを感じなくなると考えるからです。

このような極端な手段をとってしまう理由としては、どうしたって痛みをなくすことができないという絶望感、これからずっと痛みが続くという確信、により心理的視野狭窄(しんりてきしやきょうさく)に陥っていることが多いからと言われています。

心理的視野狭窄とは、心理的に視野が狭くなり、たくさんあるはずの解決策(いろいろな考え)を見つけられなくなってしまっている状態のことです。

普段だったら思いつくような解決策が全く出てこず、うっすら意識の遠くの方に見えている唯一の解決策が、自殺に繋がっているということです。

そして、ある特定の解決策が見つかると、追い込まれている心理状態から、それ以外の方法はないと考えてしまい、自殺という結論へとつながっていきます。

 

ここまででわかるように、

自殺を選択するということ自体は特殊かもしれませんが、その結論を出すまでのプロセスは、全然特殊なものではなく、誰にでも起こっていることなのです。

ではなぜ解決策として自殺を選択してしまうのかという点について、自殺者の心理状態からさらに説明していきます。

 

●自殺者の心理状態

自殺学の権威であるシュナイドマンが導き出した、自殺に関する10の共通点というものがあります。

1.自殺に共通する目的は、解決策を探ることである

2.自殺に共通する目標は、意識を止めることである

3.自殺に共通する刺激は、耐え難い心理的痛みである

4.自殺に共通するストレッサーは、心理的欲求が満たされないことである

5.自殺に共通する感情は、絶望感と無力感である

6.自殺に共通する認知の状態は、両価性(死にたい気持ちと生きたい気持ち)である

7.自殺に共通する認識の状態は、狭窄(視野が狭い)である

8.自殺に共通する行動は、退出である

9.自殺に共通する対人的行動は、意図の伝達である

10.自殺に共通する一貫性は、人生全般にわたる対処のパターンである

以上10項目が、シュナイドマンが導き出した、自殺に関する10の共通点となります。

この中からいくつかさらに説明していきます。

 

死にたいと生きたいが混じり合った、両価的状態

自殺の直前段階では、死にたいという思いと、生きたいという思いの両方が同時に存在しています。自殺とは心理的痛みを解消するための解決策の一つにすぎず、解決策を模索しているということは、生きたいという気持ちがあるということです。

つまり、自殺者は死にたがっているわけではなく、死ぬという解決策しか見えなくなってしまっているだけであり、その裏には生きたいという思いがあるということです。

なので、自殺は予防すべきであり、予防可能なのです。

 

不器用なSOS信号である、対人的行動

自殺の危機に瀕している人は、自分が辛い状況にいることや、困っていることを他人に伝え、他人から援助を受けることが苦手です。そのため、リストカットなどの自傷行為や、死のうと思っているといった自殺企図によって、周りの人に自分が辛いということを気づいてもらおうとする場合があります。

つまり、自傷行為や自殺企図は不器用なSOS信号ということです。

 

解決策を模索していたり、SOS信号を出していたりと、

自殺者は死にたいわけではなく、生きるために解決策を模索しており、相談する能力が低いために自傷行為や自殺企図をし、他者へ援助要請のサインを送っているということです。

 

 

誰にでも起こり得る精神的苦痛と、誰もが行なっているストレス解消という行動、そこに身体的危険性が伴うことで、自殺のリスクが高まります。

しかし、自殺者も死にたがっているわけではなく、さらに助けを求めるサインも送っていることから、

簡単ではないが、自殺という現象は予防することができるといえます。
自殺に至るまでの心理的過程を理解しておくことで、実際身の回りで自殺を考える友人が出た場合でも、もしかしたら相手の変化に気付きやすくなるかもしれません。

 

Point
自殺は目的ではなく、苦痛から解放されるための手段。

 

 

4:自殺を計画して終わる人、実行に移してしまう人、その違い

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自殺を計画する人は実際に自殺を行なった人に比べて20倍も多いとWHOは推定しています。計画で終わる人と実行に移してしまう人にはどのようは違いがあるのか、これは研究者であるトーマス・E・ジョイナーが提唱した、「自殺潜在能力」「所属感の減弱」「負担感の知覚」の三つの概念から構成されている、「自殺の対人関係理論」から紐解くことができます。

 

自分を痛めつけることへの慣れ、自殺潜在能力。

人間には自己保存の本能が備わっているため、自分を自分で傷つけることは実は非常に難しいことです。恐怖心によりためらい、実行に移せないことがほとんどです。

自殺潜在能力が高まるには習慣化が関わっており、日常的に身体的暴力を受けたり自ら行なっている、日常的に危険薬物を摂取している、日常的に意識を失うほどアルコールを飲んでいる、といったように、自らを痛めつける行為に慣れればなれるほど自殺潜在能力は高まっていきます。痛みや恐怖への慣れが生じるからです。

自殺潜在能力は短期では変化しにくいという特徴があり、一度高まってしまった場合、能力が低下するには時間がかかるといわれています。

 

自分は孤独だと感じてしまう、所属感の減弱。

所属感の減弱とは、孤独感とほぼ同じ意味です。自分はひとりぼっちだと感じたり、心が通じ合う人が存在しないと思ってしまう状態です。

所属感に関しては、自殺の潜在能力と違い比較的短期で変化が起こるため、急に孤独感を感じたり、急に感じなくなったりと変化しやすいです。

 

あの人の迷惑になっているんじゃないかと感じてしまう、負担感の知覚。

負担感とは、自分の大切な人にとって、自分の存在が負担になってしまっているという感覚です。

こちらも比較的短期で変化が起こるといわれています。

 

 

以上3点が自殺の対人関係理論です。

自殺潜在能力が高まっているだけでは、体を痛めつけることに慣れているだけで、自殺をしたいという思いがそもそも発生していないので自殺をしようとはしません。

所属感の減弱、負担感の知覚が発生すると、自殺をしたいという思いが発生しますが、この際に自殺の潜在能力が低い状態だと、痛みへの恐怖や、自己防衛本能によって、実際に死に至るほどの身体的ダメージを与えることは難しいです。

自分を死に追いやるための自殺潜在能力、死にたい気持ちを発生させる所属感の減弱、負担感の知覚、の3つが揃った時、自殺のリスクはかなり高いと言えます。
自殺潜在能力は高いものの、所属感の減弱や負担感の知覚が見受けられない場合は、将来的な自殺のリスクはかなり高いが、切迫している危機的状況にまでは達していない、と判断することができます。

 

Point
自らを痛めつける習慣は、自殺のリスクを高める。

 

 

5:大切な人の自殺を防ぐため、自分が振り回されないための具体的な対策法

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自殺の危機に直面している人に対して、どのような対応をするべきなのか。その際、自分の気持ちが落ち込むことを防ぐためにはどうすればいいのか。

ここでは、自殺予防のためには何が重要で、何をすべきなのかを説明していきます。

 

1に共感2に共感、3、4も共感5も共感。

自殺の危機に瀕する人への対応として最も重要なのは、共感的に話を聞くことです。

いのちの電話など、自殺の危機に瀕する方への援助サービスの多くでは、ビフレディングという方法が重視されています。ビフレディングとは人間としての共感と深い心の交わり、として用いられるようになった言葉です。

人と人との深い共鳴や喜怒哀楽を共にすることで達成される共感により、自殺は防ぐことができる、という考え方が背景にあります。

この考えは世界中の自殺予防活動の中核となっています。

次に自殺専門家による自殺の危機に瀕している人への対応方法を、やったほうがいいこと、やってはいけないこと、の2つの視点から紹介します。

 

●やったほうがいいこと

1:苦しみを打ち明けられた場合、誰にでも打ち明けているのではなく、自分だから打ち明けてくれたということを自覚する。

2:終始聞き役に徹する。

3:共感する。

4:場合によっては専門家に相談する。

 

●やってはいけないこと

1:話題を逸らす。

2:激励する。

3:社会的・一般的な価値観を押し付ける。

4:叱りつける。

5:批判・助言をする。

6:質問をたくさんする。

 

感じている方もいるかとおもいますが、これらは別に自殺の危機に瀕している人だからこその注意点というわけでもなく、他者と会話をしている際に、相手との関係性を構築するために注意すべき点です。

つまり、相手の状態に左右されるものではなく、他者と会話をする際に一般的に推奨されている方法です。

ではなぜ自殺の危機に瀕する人に対して効果的なのかというと、自殺の対人理論でも説明した、所属感の減弱を緩和することができるからです。

説明した通り、所属感の減弱は比較的短期で変化が起こるものなので、共感や傾聴(話を聞く)で関係性を構築することで、相手の孤独感を緩和することができます。

 

具体的な話の聞き方は、動機付け面接を利用する。

動機付け面接というのは、アンビバレント(相反する感情を同時に抱くこと)な心理状態にある人の行動を変容させるために、選択的な共感を行うテクニックです。

つまり、「生きたい」と「死にたい」というアンビバレントな状態を、「生きたい」に傾けさせるためのテクニックです。

このテクニックは、矛盾を拡大する、共感を表現する、抵抗を手玉に取る、自己効力感を援助する、という援助上の四つの一般原則をもとに対話を進めていきます。

 

●そもそも人間の意思決定はどのように行われているのか

自殺に限らず何かの意思決定をする際には、

変化することの利益

変化することのコスト

変化しないことの利益

変化しないことのコスト

の四点の見積もりをして決定がなされると考えられます。

変化することの利益と変化しないことのコストが高くなるほど、変化をしやすくなりますし、変化することのコストと変化しないことの利益が高くなるほど、変化をしづらくなります。

こちらを踏まえて、動機付け面接を行なっていきます。

 

●認知的不協和を自覚させ、変化への準備を整える「矛盾の拡大」

認知的不協和とは、自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態であり、そのとき不愉快感を覚える、という社会心理学用語です。

アンビバレントな状態で悩み迷っている人に対して、自身の中にある葛藤を強く意識させてあげることで、変化への準備を促すことができます。

葛藤している状態は苦しく不愉快なものであり、そのことを意識することで、どうにかして葛藤を解消したいという思いが芽生えます。

つまり、葛藤を明確に意識させることで、変化するための準備を整えることができるのです。

●戦略的に共感し、変化をさりげなく促す「共感の表現」

共感を表現する、というのは、相手の話の全てに共感するのではなく、変化につながるような発言や言い方にのみ共感をするということが重要です。

相手が、変化することの利益、変化しないことのコスト、について自然と口にした時に、発言を反射(おうむ返し)したり、明確化することで、共感を通して変化を促すことができます。

 

●変わりたくないという気持ちは自然なもの、と受け入れ「抵抗を手玉に取る」

これは相手との会話の中で何かをどうこうするということではなく、聞き手側が相手をしっかりと受け入れる必要がある、という内容をいっています。

変わりたくないという気持ちは誰にでもある自然なものである、と聞き手側が受け入れることが重要であり、変化をしようとしない相手に対しても理解を示すことが大事です。

 

●変化するために必要な、「自己効力感を援助する」

人が何かをするときには、自分でもできる、できるかもしれない、という自信や見通しが必要です。このように、自分が働きかけることで何かを達成できるかもしれない、という自己への信頼を「自己効力感」といいます。

そのため、変化をしようとしている相手に対して、自己効力感を高めてあげることが必要となります。

具体的にどうすればいいのかというと、

相手が変化をするための自らの能力について言及をしたときに共感する。

変化するための準備(変化したいという気持ち)ができている、といった言及をしたときに共感する。

大きな目標(例:素晴らしい人生)のために、小さな目標(例:毎晩お風呂に入る)からやってみる、といった言及に共感する。

というように、相手から変化に対して肯定的な発言が出たときに、目一杯共感することが重要です。

 

ビフレディング動機付け面接など、

全てに通じるのは、共感するということが最重要であり、その先に相手との関係性の構築があるということです。

関係性ができないことには何も始まりません。

 

共感は報酬である。戦略的共感が自殺予防に効果的な理由。

共感をしてもらうということは、報酬としての意味を持ちます。自分を理解してもらえた、という感覚が報酬にあたります。

褒められたり、気にしてもらえたりと、特定の行動の後に報酬が与えられることで、その行動の頻度は増していきます。

そのため、自殺の危機に瀕している人の口から、変化することの利益(自殺をしないほうがいい理由)、変化しないことのリスク(自殺をすることで生じる不利益)、が出た際に戦略的に共感することで、それらのことを口にする回数が増えることが期待できます。共感という報酬を得られるからです。

これは自己知覚理論という考え方がベースになっています。

自己知覚理論とは、アメリカの社会心理学者である Daryl J. Bem によって提唱された理論。

自己知覚は他者知覚と同様のプロセスを通じてなされるという考え方で、自らの感情や認知などの態度について、自らの行動や外的な状況を観察することを通じて知るというもの。

自殺の危機に瀕している人を例にすると、「自殺したい」と発言することや、自殺を計画するという行動を通して、自殺をしたいという気持ちが認識され、定着していくということです。

そのため、本人の口から生きることにつながる発言自殺を悩んでいるといった発言がされたときに共感をし、そのような発言が出る頻度を高めてあげることで、「自分は生きたいんだ」「自殺に対してネガティブな感情を抱いているんだ」ということを、本人がどんどん認識していきます。

以上の理由から、戦略的な共感が自殺予防につながるのです。

 

いかに共感が大事なのかを説明してきました。まとめると、

変化を促す部分にのみ共感をし、共感を通して相手との信頼関係を構築していくことが最重要なのです。

なにかしらのアドバイスをしてあげたい、どうにか考え方を変えてあげたい、と熱心に対応される方がほとんどだと思いますが、まずはその前に、ひたすら相手の話を聞き、一つ一つの言葉に共感を示すようにしてあげることこそ、相手のためにできる最初の行動なのです。

 

援助する側が疲れきってしまわないための、行動分析学

身近にいる大切な人が「死にたい」と言っていたら、援助の手を差し伸べる人は多いと思います。その際によく起こるのが、援助する側が疲弊しきってしまうということです。死にたいほど悩んでいる人の状況が短期間で劇的に変わることは少なく、長期的な援助が必要となります。そのため、なかなか終わらない援助に疲れてしまうことが多々あるのです。

この問題の対策法として、行動分析学が利用できます。

 

行動分析学とは、アメリカの心理学者である B.F. Skinner のオペラント条件づけの考え方を基礎とし、人間を中心として生物の「行動」を、環境との相互作用の中で捉えようとする考え方。

「行動」とは、死人にできない全てのことを指す。

※オペラント条件づけとは、報酬や嫌悪刺激に適応して、自発的に行動を行うように、学習すること。

行動分析学では、人間の行動をレスポンデント行動オペラント行動の2つに分けて考えます。

 

●刺激によって生じ方がコントロールされる、レスポンデント行動

レスポンデント行動とは、ご飯を食べると唾液が出るなど、主に生体が本来持っている生理的な反応のことを指します。

食べ物を口に入れるという原因に対して、唾液が出るという行動が行われる、という感じです。

 

●行動の結果によって生じ方がコントロールされる、オペラント行動

オペラント行動とは、電気がつくと理解しているからスイッチを押すなど、行動の原因が行動の後にあるのが特徴です。

電気をつけるという原因が、スイッチを押すという行動の後に行われる、という感じです。

 

「死にたい」「自殺を考えている」といった、自殺する意思を伝える行動は、何かしらの刺激を受けた際に必ず発生するものではないので、オペラント行動と捉えることができます。

 

●オペラント行動を決める4つの法則

オペラント行動(オペラント条件づけ )には法則があり、この法則に沿って行動が制御されています。

1:好子(嬉しい結果)の出現により行動頻度の強化

2:好子(嬉しい結果)の消失により行動頻度の弱化

3:嫌子(望ましくない結果)の出現により行動頻度の弱化

4:嫌子(望ましくない結果)の消失により行動頻度の強化

例えば、お手伝いをしたら凄く感謝された、となると、感謝されたという好子が出現していることにより、また次にお手伝いをする可能性が高まります。

片付けをしないまま出かけてしまって物凄く怒られた、となると、物凄く怒られたという嫌子が出現していることにより、片付けないで出かけるという行動の頻度が下がります。

逆も然りで、お手伝いしたのに余計なことをしないでと言われた、となると、迷惑がられたという嫌子が出現しているため、お手伝いをする頻度が下がります。

部屋の掃除をすることで、散らかっていて気分の悪い部屋が綺麗になった、となると、散らかっていて気分の悪い部屋という嫌子が消失しているため、掃除をする頻度があがっていく、ということです。

ここで自殺を計画している相手との関わり方で関係してくるのが、動機づけ面接の際に重要と説明してきた「共感」です。

共感というのは、多くの人にとって好子となります。なので、変化を期待できるような発言に対して戦略的に共感をすることで、必然的にそのような発言の出現頻度が強まっていくということです。

 

●相手に振り回されないために、行動の裏にある好子と嫌子をしっかりと把握する

行動の頻度が維持されている、増加している場合は、その行動の後に好子の出現か嫌子の消失が必ず起こっています

「どれだけ援助をしても、自殺をやめる気がまったくないみたい」と疲弊してしまう前に、まずは好子と嫌子をしっかりと把握しましょう。

「死にたい」と伝えることで、凄く親身に話を聞いてくれる、というのも好子の出現となります。身近なところでいうと、具合が悪いと言ったらゼリーを買ってきてくれた、なども当てはまります。

また、「死にたい」と伝えることで、「〇〇は私がやっておくから、今日は休んでいなさい」と、やらなければいけなかったことをやらなくて済んだ、というのは嫌子の消失となります。具合が悪いと言ったら仕事を休ませてくれた、などが当てはまります。

このように、良かれと思ってした行動によって、さらに悪循環が生まれてしまうことが多々あります。難しいところではありますが、自分の善意から生じた行動が、どのような結果を招きうるのかをしっかりと考えることが重要だと言えます。

 

●好子と嫌子はタイミング次第で除外できる

行動直後のタイミングで、好子の出現か嫌子の消失によって強化が起こなわれます。

つまり、行動直後(死にたいと言われた直後など)のタイミングでなければ、好子の出現も嫌子の消失も起きないのです。

つまり、「死にたい」と伝えられたら、そのタイミングで親身に話を聞いたりするのではなく、それ以降のなんともないタイミングで相手を気にかけてあげるようにすればいいのです。

そうすれば、相手の行動を強化せずに済むので、相手のことを手助けでき、援助することに疲れ果ててしまうこともなくなり、助けているのにどんどんお互いが不幸になっていくという悪循環から抜け出すことができます。

 

自分の行動が相手にどのような影響を及ぼすのかを、行動分析学の観点から理解し、

援助を求めてきた相手には、求めてきた直後のタイミングではなく、その後の適切なタイミングで手を差し伸べるようにしましょう。

 

 

身近な人が自殺の危機に瀕していると、どうしたって助けてあげたくなりますし、どうしても死んでほしくないために考え方を押し付けてしまったりもします。しかし、死んでほしくないからこそ、動機づけ面接や行動分析学など培われてきた知識の力を借りて、適切な対応をするように心がけることで、相手も自身も救われることにつながると思います。
戦略的な共感と、適切なタイミングでの援助を心がけましょう。

 

Point
相手を助けるためには、まず自分の心の安息が必要。

 

 

6:将来の自殺のリスクが高まる、自傷行為

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自傷行為とは、自分で自分の身体を傷つける行為のことです。リストカットなどはもちろん、危険薬物の摂取なども自傷行為といえます。

自傷は必ずしも病的というわけではなく、ピアスやタトゥーなど文化として浸透しているものもあります。

ここでは、自傷と自殺の関係性について説明していきます。

 

10人に1人は経験し、継続的に行われる自傷行為

自殺が年間20人/10万人という割合で起こっているのに比べ、

自傷は1人/10人という高い割合で起こっている現象であり、一般的と言ってしまってもいいほどです。

ピアスやタトゥーなどファッション性のあるものも自傷行為であるということも影響していると思います。

また、自傷行為は一度で終わることは少なく、多くの人が継続して複数回行います

そして、自傷行為を行う割合は、男性よりも女性の方が高い傾向があります。

 

心を守るために身体を盾に。自傷行為の目的。

自傷行為の最大の目的は、心理的苦痛に対処することです。

心の痛みを忘れるために、身体に痛みを与える。

というのがわかりやすいかと思います。

自傷行為を繰り返す人は、自傷直後に脳内でエンケファリンやエンドルフィンという脳内麻薬が分泌され、痛みを感じなくなるという研究結果もあります。

 

自傷行為は必ずエスカレートしていく。

自傷行為の後に、心の痛みが軽くなる、心の痛みを一時的に忘れられる、という現象は、先に書いた行動分析学からみると

嫌子の消失になります。そのため、自傷行為を行う頻度が増えていくのです。

また、自傷行為には耐性が生じます。行えば行うほど、今までと同程度の身体的痛みでは、心の痛みを軽減できなくなっていくため、今まで以上のダメージを身体に与えていくことになります。

そうなると、身体にダメージを与える能力である自殺潜在能力がどんどん高まっていくため、自傷行為は自殺につながる危険性が高いといえます。そのため、

自殺予防のためには、自傷への対応も必要となります。

 

自傷行為は周りに伝染する。社会的学習理論による自傷の伝染現象。

いまいちピンとこないかもしれませんが、自傷行為には、周りにどんどん伝染していくという特徴があります。

自傷を見た人が自傷を始め、それを見た人がまた新たに自傷を始める、というように、周りにどんどん広まっていくことがよくあります。

この現象は、社会的学習理論によって説明することができます。

 

●見るだけで学習が行われる、社会的学習理論。

社会的学習理論とは、アメリカの心理学者であるアルバート・バンデューラが提唱した、行動の学習に関する理論。

自分で直接経験しなくとも、他者の行動を観察したり模倣(真似)することで学習が成立するという理論。

上記が社会的学習理論の説明となります。つまり、

自分自身で直接経験していないことでも、他人が経験している様子を見て学習することができる。

ということです。

さらに、行動するメリットが与えられ、行動頻度の強化が起こった場合、与えられた当人は勿論のこと、

それを見ているだけの人も行動頻度が強化される、という代理強化が起こる。

ということがわかっています。

 

●観察学習と代理強化によって、自傷は伝染していく。

以上のことより、自分が実際にしなくとも、自傷行為を目撃したり、自傷行為経験談を聞いたりと、

自傷に対する観察学習が行われることにより、自傷行為が誘発される。

というわけです。これが自傷が伝染する理由です。

例えば、クラスで自傷行為を行なった友人がいるとします。その友人が自傷の傷跡を見せてきたり、体験談を話してくることにより、観察学習が行われていきます。

さらに、友人のその行為によって、友人に対して周りの人が優しくなるなど好子が出現したり、今まで注意されていたことを注意されなくなるなど嫌子の消失が行われた場合、代理強化によりその様子を観察している人が自傷行為を行う可能性はさらに高まります

 

●メディアによる自殺報道後に自殺数が増加する、ウェルテル効果。

自傷に限った話ではないのですが、観察学習と代理強化が日常的に行われているものといえば、テレビやネットなどのメディアです。通販番組の実演販売などもそうですし、グルメ番組などもそうです。

このようにプラス方向に働くのであればいいのですが、問題なのが自殺報道です。自殺報道と自殺に関して、ウェルテル効果というものがあります。

ウェルテル効果とは、アメリカの社会学者である David P. Phillips により見出された以下の現象。

自殺報道の後に自殺の増加現象が生じる。その増加は一時的なものである。報道量が多いほど自殺の増加量が多くなる。自殺したと報道された人に近い属性を持つ人の自殺が特に増加する。

簡潔にいうと、

自殺報道をすることによって、自殺者が増える。

ということです。詳しく報道することで観察学習が行われ、コメンテーターや街の人の声が自殺や自傷を擁護したり美化するようなものであった場合、代理強化が働いてしまうからです。

 

 

自傷は自殺とは異なるものですが、自殺へとつながる可能性が高いものです。

自殺予防には自傷行為への対処が必要となります。

また社会的学習理論を理解し、好子の出現を防いだり、嫌子の消失を妨げることで、自傷行為の伝染を防ぎましょう。

 

Point
自傷は一般的なものであり、気づかないうちに伝染していく。

 

 

 

以上が「自殺予防の基礎知識 多角的な視点から自殺を理解する」を読んで学んだことです。

年間の自殺率は人口10万人中20人程度であり、身の回りで考えると滅多に発生することではないといえます。しかし、自殺につながる危険性が高い自傷行為に関しては、10人に1人の割合で起こっており、継続して行われているため、身の回りで発生したとしてもなんら不思議はありません。

自殺、自傷どちらにも共通しているのは、

死にたいのではなく、傷つきたいのではなく、精神的苦痛から解放されたいだけ。

ということです。

社会的学習効果や、ウェルテル効果により、自殺衝動や自傷衝動が強化されることはありますが、一番の目的は精神的苦痛からの解放なのです。

もし身の回りで自殺の危機に瀕している人がいて、その人のことを助けたいと思った場合は、このことをよく理解し、ビフレディング動機づけ面接行動分析学など役に立つ知識をうまく活用していってください。

本記事でまとめた内容以外にも多くのことが本書には書かれています。是非本書から自殺に関することを学んでみてください。

最後に本書の一節を引用して、この記事を締めたいと思います。

長い人生全体において、自分のみならず周囲の人も含めて考えると、自殺が身近なところで生じる確率は跳ね上がります。自殺に出くわしてしまう確率は、低いものではないのです。

末木 新 自殺予防の基礎知識 多角的な視点から自殺を理解する

 

自殺予防の基礎知識 - 多角的な視点から自殺を理解する

自殺予防の基礎知識 - 多角的な視点から自殺を理解する